川上恵(沙羅けい)の芸術村
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                 おふさ観音



    五月の花はやっぱりバラでしょうということで、それに静かな所で美味しいお茶も
    頂きたくて、奈良県橿原市の「おふさ観音に」出かけた。
    境内を一歩入ると、マスクの中で「わあ!」と、小さな声が洩れる。
    赤、白、黄、ピンク……の色彩が一挙に目に飛び込んでくる。
    「大阪から来て済みません」と、内心で詫び、いつもより少し多めにお賽銭を入れた。

    昔この辺り一帯は鯉ヶ淵と呼ばれる大きな池だったそうだ。
    土地の娘のおふさが池の縁を歩いていると、白い亀の背中に乗った観音様が出現した。   
    そこで、この池にお堂を建て観音様を祀ったのが始まりだとか。1650年頃の事だ。

    境内には1500種ものバラが咲き誇っている。花曼荼羅とは言い得ている。
    あの世には蓮池の他にバラの庭園もあるらしい。
    咲いているのは、究極のバラ、次世代のバラと呼ばれるイングリッシュローズだ。
    他にもミニバラや蔓バラが、本堂や観音像、釣鐘を背景に今が盛りだ。

    アーチを潜ろうとして足が止まった。
    絡ませた蔓バラは、我が家のと同じ蔓バラなのに別の花のように可憐だ。
    帰ったら我が家のバラの手入れをせねばなるまい!愛情をこめて丹精せねばなるまい!
    華麗なバラの中で、ありふれた蔓バラが妙に心に残った。

    くぐり戸を通り、今日のもう1つの目的の茶房に向かう。

    赤い絨毯敷きの茶房に、客は皆無だ。
    手入れの行き届いた庭を眺めながら、私は抹茶を夫はアイスコーヒーを頼んだ。
    5月の風が池の上を渡り、茶房に流れ込む。静寂とバラの香りも一緒に、
    ゆっくりお茶を頂く。
    モノクロの世界が一挙に総天然色になった気分だ。
    「美しいもの、美味しいものは、いいなあ」

      春のバラまつり    5月15日 〜 6月30日
      秋のバラまつり    10月19日 〜 11月30日
      風鈴まつり       7月1日 〜 8月31日  風鈴まつりの様子  おふさ観音
    
    
 
                             
               2021.5.15