川上恵(沙羅けい)の芸術村
 話のポケット
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                   乳白色の



    その日の気分によって入浴剤を変える。

    昨日は、畑でとれた大根の葉を干したヒバを、木綿の袋に入れて浴槽に浮かべた。
    白い袋がプカリプカリと浮かぶ様は、ちょっとした風情である。
    湯の色は緑色の混じった薄い黄土色。
    我が家の畑生まれの葉を捨てるに忍びなく、寒風に干して作ったのだ。
    わがものと思えば……である。それに湯冷めがしにくいのだ。

    その前の日は、定番のバスクリンの森の香りだった。
    緑の湯は子供のころからの馴染みである。


    コロナウイルス騒動で、気分が重い。
    そうだ、温泉巡りをしよう! たしか入浴剤の買い置きがあったはずだ。
    日本国中、13ヶ所の有名温泉巡りができる。

    登別・十和田・草津・箱根・湯沢・白骨・奥飛騨・白浜・有馬・別府・湯布院・霧島・道後
    が揃っている。
    腰が痛いという夫に、
    「どこの温泉に行きたい?」と聞くと、
    「うーん」、決めかねている。
    そんなに悩むか、たかだか入浴剤で。私は心の中で毒づき、多分、白浜か有馬を
    選ぶだろうと思っていると、
    「霧島」
    「へえ、霧島。なんで霧島? 変わってるねえ。行った事あるの?」
    ない、と夫は答えた。なんとなく、だそうだ。
    「私は行ったけれど、ええとこやよ霧島は。街中のあちこちから白い煙が上がってるし、
    霧島神宮は華麗にして荘厳だった……」と、一席ぶつのである。

    その夜は霧島温泉に入浴することにした。
    湯の色は乳白色で、まったりと肌になじむ。湯だけを見ていれば、旅情もほんのわずかに。
    湯ったり周遊パック・「旅の宿」は、ほんに優れモノである。


   2020.3.29