川上恵(沙羅けい)の芸術村
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                      難転魔滅



    「神々の降る里」葛城に座す、葛城坐一言主神社(かつらぎにいますひとことぬし)では、
    冬至に厳かな神事・一陽来復祭が催される。
    一陽来復とは、陰極まって陽が復って来ること。なんと美しく力強い言葉だろう。
    そのうえ、長年見たいと思っていた鬼剣舞(おにけんばい)も奉納されると聞き、
    これは是非お参りせねばならぬと、仲間と出かけた。

    長い参道を進み石段を上る。
    葛城山麓の神社は、かんなびた雰囲気に満ち満ちていた。
    社や境内は清澄な空気に包まれ、ときおり霊気が一条の帯となって流れ落ちる。
    御神木の樹齢1200年の乳銀杏の根元には、真っ赤な南天が実をつけていた。

    神社の祭神は、葛城之一言主大神と幼武尊(ゆうりゃくてんのう)で、大神はどんな願い事でも
    一言なら叶えて下さるそうだ。シンプルにして、なんとも頼もしい。

    私は本殿の前で長ーい願い事をした。
  
    いよいよ鬼剣舞だ。笛や太鼓の音色に先導された、白、青、赤、黒の面をつけた鬼たちが、
    いや仏が境内狭しと舞い跳ねる。金色の頭髪が四方八方に乱舞する。
    その勇壮なこと、華麗なこと。腰に巻かれた衣装の鮮やかなこと。
    岩手の地で、役行者が布教のために踊ったのが起源だという。
    そうか、葛城の峰々を修行の場としていた役行者が踊ったのか……。
    岩手県が急に近しく懐かしい地になる。
   
    鬼剣舞のあとは、蝋燭の献燈・金幣による御加持・松明神事と神聖な儀式が続き、
    私の心身は穢れを落としピカピカになった。
    今年は心配事や難儀な出来事が多く、私を滅入らせていたが、これで「一陽来復」だ。
    もちろん、冬至の2日前から節分までの期間限定で授けられる「一陽来復御守」を、求める
    事も忘れなかった。

    深夜12時にお札を飾ること、お札には魔滅(まめつ)にかけて大豆が入っていること、
    小さな肌守りには、難を転じるの意で、境内に自生している南天の葉が潜ませてあること
    などなど、まこと秘法の香りがする。
    大みそかの12時が楽しみだ。
    来年はいい年になること間違いなしである。
     

        ※ 鬼剣舞については「現金なもので」をご覧ください



           2020.12.24