川上恵(沙羅けい)の芸術村
 話のポケット
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                 現金なもので



    20年ほど昔、岩手県のある方から「こけし」を頂いた。
    いかつい顔をしていて、「こけし」には珍しく頭には躍動感あふれる髪の毛が植わっていた。
    足元には「鬼剣舞」と金色の文字が入っている。
    だが、こけしに興味のない私は、本棚の隅に無造作に置いた。

    それから20年である。

    先日ひょんなきっかけで、私の住む藤井寺市の辛国神社で、数年前に鬼剣舞が奉納された
    と知った。
    なぜ岩手県北上市の、国指定・重要無形民族文化財が辛国神社で? と疑問が湧いた。
    さっそく宮司さんにお伺いすると、なんとなんと、

    鬼剣舞の起源は、陸奥の地で修験の祖である役行者が念仏を唱えながら踊ったのが
    始まりとされるそうだ。(他にも説はあるが)
    そしてこの藤井寺には、辛国神社縁の一族の韓国広足という役行者の弟子がいたそうだ。
    広足は呪禁の術に精通していたと言われる。
    病気平癒や悪疫退散と、邪悪なものを払い去る呪術師なのだ。朝廷にも仕えた。
    岩手県の北上市と辛国神社は、役行者つながりだったのだ。

    鬼剣舞の鬼は実は仏の化身だったのである。
    意外なところで辛国神社と岩手県が結びついたものだと、歴史の奥深さを改めて知った。
    
    現金なもので、さっそく私は「こけし」を、暗い本棚から取り出した。
    四方八方に舞い散っていた勇壮な髪の毛はペタンとし、心なしか嵩も少なくなっている。
    私は丁寧に「こけし」を磨いた。胸元の笹竜胆の白い家紋が鮮明に浮き上がった。

    そして目につきやすい場所に飾った。仏様の化身だもの。
    まことに浅ましくも現金な私である。

      ※ 呪禁(じゅごん)  道教に由来する術で、呪文や太刀などを用いて邪気などを
         制圧する術
     
     


                   2929.10.23