川上恵(沙羅けい)の芸術村
 話のポケット
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                  ゆらゆら



    家の中に生き物の気配を感じたくて、鈴虫を買った。
    和歌山生まれの鈴虫である。 数えてみると10匹いた。
    さっそく大きな容器に、クヌギやブナの昆虫飼育用のマットを敷き詰め、畑の出来の
    悪い茄子を入れてやった。それに鈴虫専用の餌と木炭も。

    5ミリほどの小さな体に、生糸のような長い触角がゆらゆら揺れている。
    きっとこの触覚で仲間との距離を測っているのだ。
    私は容器の蓋を外して、じっと鈴虫の様子を眺めている。
    音はしないのに、鈴虫が動くたびに気配がする。生きているものの気配が。
    この気配が大好きなのだ。暖かい気配だ。

    いつ脱皮するのだろう、いつになったら鳴くのだろう、いつ卵を産むのだろう……。
    いつ、いつ、いつ、と待ち遠しい。
 

    どうやら私は「ゆらゆら」が大好きなようだ。
    
    庭の甕には金魚が2匹、ゆらゆらと泳いでいる。
    2階のベランダでは、青空を背景にヘチマがぶらぶら・ゆらゆらと、微風に揺れている。
    そして鈴虫の触覚の、ゆったりとしたゆらゆらの動き。空気と握手しているようだ。

    ゆらゆらの動きはなんとも優雅で、私を落ち着かせる。
    私もゆらゆらといきますか。



            2020.8.12