川上恵(沙羅けい)の芸術村
 話のポケット
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                     養老鉄道



    かるーい乗り鉄である。
    ローカル線に揺られながら、未知の風景と出会うワクワク感、高揚感。
    ガタゴトガタゴト……、じっと耳を傾けていると、本当にガタゴトと音を立てている。
    1輌か2輌編成の小さな箱は、素朴で優しくて、懐かしい親戚の家のようだ。
    
    そう遠くないのにずっと気になっている場所があった。「養老の滝」である。
    子供の頃に聞いた孝行息子の話が、よほど頭に残っているのだろうか……。

      この滝の水がお酒だったら、父親にお酒をいっぱい飲ませてあげられるのに。
      貧しい暮らしの息子の願いが叶ったのか、滝がお酒になりました。
      そしてそのお酒を飲んだ父親は元気になりました。
      この話を聞き、確かめた帝は、年号を養老と改め、孝行息子はこの地を治めました、
      とさ。


    最寄駅から大和八木へ、そこから近鉄アーバンライナーで桑名へ。
    車内で食べる駅弁とビールの美味しさは格別だ。
    夫などはこれにつられて、私の乗り鉄に付き合っているのだ。
    桑名からは養老鉄道だ。初めての路線である。
    養老線は三重県の桑名駅と岐阜県の揖斐駅を結ぶ、57,5kの鉄道である。
    目的の養老駅は桑名から10番目で、乗車時間は約40分。

    窓からの伸びやかな風景は飽きることがない。
    広がる平野から突如山がせり上がり、聳え、それが延々と続く。養老山地である。
    新緑の山並みの美しさ、グラデーションの妙と言ったら……。
    そして短いトンネルを2,3度くぐる。トンネルの上は水量の少ない川だとか。
    天井川なのだ。なんとも複雑な地形である。

    目的地の養老駅構内には大小の瓢箪がぶら下がっていた。
    モダンな駅舎は大正時代の物だとか。簡素なのに重厚で、なんとも趣のある駅舎だ。
    
    そして、
    養老の滝は溜息がでるほど端正な美しさだった。孝行息子のように清々しい滝だった。
    

2022.5.19