川上恵(沙羅けい)の芸術村
 話のポケット
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               幼児に逆戻り


      
      残しておいても勿体ないと、気に入りのカットグラスや器を常用に使っている。
      母が残した茶道具の茶碗や菓子器なども、ご飯茶わんや漬物入れになっている。
      もっとも茶碗は練習用のものである。
      菜っ葉の炊いたんや煮魚も、大きな菓子器に盛る。
      白菜の漬物が、割烹の1品に変身する。
      料理はともかく、器だけは立派なものだ。

      ところが困った事が起こるようになった。
      食器をよく割るようになったのだ。
      自慢じゃないが、結婚してからつい最近まで、食器類を落として割った事がなかった。
      せっかちでけっこう乱暴に扱うにもかかわらずである。
      意識もせずに難なくこなしていたのに、失敗を重ねるようになったのだ。
      「困った」を通り越して、「寂しい」ものがある。

      記憶はないけれど、きっと幼児の頃ってこんなだったのだろうな……
      こんなにも手元が頼りなかったんだなあ、心もとなかったんだな……
      物を落としたり転んだりしながら、大きくなったんだな……
      そう思うと自分が幼子のように思えて、たよりない手先が愛おしくなる。
     
    
      実は、
      かるーいリューマチの気があって、中指と薬指が少し曲がっている。
      多分そのせいだ。
      それでなくても不格好な指が、ますます不格好である。

      先日、カメラを向けられて、咄嗟にピースと指を顔の横に出した。
      今どきピースサインなんて時代遅れだなと、指を見たら、なんと、
      指がVの字にならずに、垂れた兎の耳のような形になっていた。
      思わず友人が、
      「はよ、指おろし!」と、言った。


      ここ2、3日の間に割ってしまったコップや、大鉢代わりに使っていた菓子器は、
      新聞紙に包んで、次の燃えないゴミの日まで、目の届かないところに潜ませて
      おこう。
      
      プラスティックの食器を買おうかな。落としてもわれないヤツ。
      それとも100均の食器類を買おうかしらん。

  
                 2019.11.8