川上恵(沙羅けい)の芸術村
 話のポケット
エッセー  旅  たわごと    雑感 出版紹介 

 


                      予測不能な日



    朝から曇り空だった。

    今頃郊外の田圃では、稲は黄金色となり畔には彼岸花が咲いているだろう。
    世間は4連休真っ只中である。
    ゴーツートラベルもゴーツーイートとも無縁とは、なんとも寂しいな……。
    よし!今日は気温も低そうだ。彼岸花を見に明日香を歩こう、と決めた。
    決めたら行動は早い。

    ところが、
    家を出て駅に向かう途中から太陽が雲間から現れ、やがてカンカン照りになった。
    「今の体調で、この炎天下は歩けないなあ。明日香は無理だな……」
    最寄り駅に着き、常緑の橿原神宮の木立の下を歩こうと決め、電車に乗った。
    
    橿原神宮前駅の改札を出ても、真夏並みの太陽が照り付けていた。

    何度来ても、橿原神宮の荘厳さ歴史の深さに感動をする。
    神武天皇がこの地に宮を置き、第一代天皇として即位しおよそ2600余年。
    その天皇を永遠に敬い尊びたいとの思いから、神宮は明治23年に創建された。

    長い表参道の両側に繁る橿の並木、さらに両外側には副道が設けられ、そこにも大木が
    一直線に続いている。
    緑の下を清々しい空気を吸いながら本殿に向かう。
    樹々に覆われた神宮だ、少々の太陽の照りはものともしないだろうと、玉砂利を歩く。
   
    「あれ?なんだか変だな。さっきまでのキラキラとした眩さが感じられない」
    なんと太陽が顔を隠している。せっかく行先を変えたというのに、朝と同じ雲リ空だ。
    「これって、どういうこと?」
    「そうか、今日はここをお参りしなさいということだな」
    なんでも都合のいいように解釈する私は、気を取り直し、手を洗おうと手水舎に向かった。

    コロナ禍は橿原神宮にも影響を及ぼしていた。
    手水舎の水は抜かれ空っぽだ。なんとも寒々しい光景だ。
   
         コロナウイルス防止の為 手水舎の使用を停止しております
              こちらの手水所で 手を 御清め 下さい

    1人づつ手洗いが出来る、臨時の手水所が設けられていたのだ。
    参拝をするにはまず心身を清めてから、という決まりを真摯に守っているのだ。
    さすが、国の始まりの地、橿原神宮である。

    曇り空の下私はゆっくり境内を歩く。
    深田池では「こさぎ」が人を恐れず、悠々と餌をついばんでいる。
    気がつけば木の葉が数枚色付いていた。秋が来ているんだな。
    予測不能な素敵な日だった。



                     2020.9.20