川上恵(沙羅けい)の芸術村 | |||||||
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筋金入りだなあ 月に1、2度とは言え25年も奈良に通っているのだから、1度くらいしっかりと山焼きを 見たいものだと思っていた。 見どころの穴場は見つけてある。ガイドブックにも乗っていない場所だ。 ある会の下見でなんどか佐保川沿いを歩いていて、真正面に、若草山が障害物もなく見える のに気づいたのだ。 穴場は、足元目元が怪しい上に、まだ体調にも不安が残っている私にも安心な場所だ。 佐保川の大仏鉄道記念公園の傍である。 川の背後には総合病院があり、近くには知り合いのギャラリーもある。それに足元も明るい。 これは行かねばなるまい! 家を出るときは冬日射しが射していた。よし、よし。 ところが電車が奈良につくと地面がぐっしょりと濡れている。 どうやら直前まで雨が降っていたようだ。 6時15分きっかりに、若草山の上に花火が上がった。 冬の澄んだ夜気のなか、色とりどりの大輪の花が開き、花火の音が夜空に響く。 佐保川に花火が映るのも、この場所ならではの美しさだ。 「ここに来て良かった!」 花火が終わりいよいよ山焼きの点火だ。 私は固唾を飲んでその時を待つ。 松明の小さな明りがチロチロと見える。 ところがである。いくら待っても山は暗い。チロチロが見えるだけだ。 「若草山の頂上に雪が積もっている」と、20人ほどいた見物人は、パラパラと散って行く。 それでも私は未練たらしく、佐保川に掛かる小さな橋から離れられなかった。 雨女、今年も健在だな。 よし! 来年、もう1度ここに来よう。
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