川上恵(沙羅けい)の芸術村
 話のポケット
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                    焼きました!



    「タミパン」でドーナツ型のパンを焼きました、と息子に写真入りのメールを送った。
    しばらくするとメールではなく電話がかかってきた。

    「見た感じでは形は綺麗にできているね。でも……」
    「でも、って何よ?」
    「味はどうなのかなって」
    「……」、私は口ごもったまま返事が出来ない。
    「ちょっと固そうに見えるけど」
    でも形はホンマに綺麗や、と息子は私を落ち込ませないように気をつかう。

    そうなのだ。添付のレシピ通りに作ったが、固いのだ。
    なんと表現すればいいのだろう、固すぎる蒸しパン、あるいはナン。 
    これは民さんの味わいだろうか。
    それとも、美味しいパンの味を知りすぎてしまったのだろうか。
    
    「味は素朴な感じで、噛めば噛むほど美味しいんだけどね。で、焼けたら2人で食べに来て
    と言ったけれど、あれ、ちょっと延期ね。改良の余地があるから」
    「噛めば噛むほどって、スルメやな。でも食べたいから、焼いておいて。
    日曜日に行くからね」
   
    電話を終え、私は母にパンを一切れ供えた。写真の母は文句を言わない。

    明日、また私はパンを焼く。

    

                         2020.3.14