川上恵(沙羅けい)の芸術村
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                  私の左手首



    以前、古代史・特に古墳を学ぶサークルに入っていた。
    私は、古墳そのものより埋葬されている装飾品に興味を持った。
    特に空玉(うつろだま)。なんと儚げで美しい名前だろう。
    空玉とは金製や銀製の中身が空洞の丸い玉である。繋いで耳飾りや首飾りに使われる。

    私は空玉やヒスイやメノウの副葬品を観るためだけに、あちこちの博物館を訪ねる。
    流石に出雲大社のヒスイの勾玉は大きさと言い、吸い込まれそうな透明感のある緑色といい、
    思わずため息が洩れ、足が釘付けになった。
    奈良県の藤ノ木古墳の空玉の見事さ、贅沢さには背筋が震えた。
    
    今回は大阪府立近つ飛鳥博物館の「玉からみた古墳時代」に足を運んだ。
    勾玉・管玉・ガラス製のビーズ、金箔ガラス・水晶の切子玉・空玉などなどなどなど。
    展示ケースが、私の吐く息で白く曇るほどだ。

    透きとおった水色のビーズの首飾り、首に何重にも巻いてみたいなあ……。
    黄色と水色と緑色の待ち針の頭ほどの玉を繋いだ耳飾り、着けてみたいなあ……。
    ああ、金色の空玉のブレスレットが欲しいなあ……。

    どれも、現在にも充分通用するお洒落でエキゾチックなデザインだ。

    ふと隣りに展示されている腕輪に目が行った。
    「あれ、どこかで見たような?」。懐かしい感じがする。
    「そうだ! 三輪明神だったか吉野神宮だったかで求めた腕輪と同じだ」
    

    今、私の左手首には、古墳時代の宝物に似た腕輪がはまっている。
    偽物は頼りなげに軽いが、私は嬉しがりでお調子者なのだ。
    ああ、でも、いつか本物の玉製がほしいなあ。
    
    それにしても私の住む藤井寺市の古墳から、精緻で見事な多くの玉製品が出土して
    いることは、綺麗な細工もの大好き人間としては嬉しい限りだ。

←私の偽物腕輪
2021・10・23