川上恵(沙羅けい)の芸術村 | |||||
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和ろうそく ちまちまとした美しいものが好きだ。 世間では断捨離の風潮が強いというのに。 ガラスのインク壺、お猪口、残った粘土で捻られた5センチにも満たない水滴、香合……。 身にはつけないのに、香水の瓶はパソコンデスクの上に並べてある。 だがブランド物には、一切関心がない。 いま私のお気に入りは、能登の「和ろうそく」だ。 15センチばかりの赤と黒の和ろうそくには、紅梅と白梅の絵付けがされている。 眺めるばかりだったが、ある日、灯をつけることにした。 だが、赤い蝋燭は最後までとっておくことにした。眺め用に。 でも最後って、いつだ? いつまでだ? 和ろうそくの灯りは、暖かい。まあるい光の先がひっぱられるように、伸びてゆく。 風もないのに、時おり優しく揺らめく。 心が鬱屈した時、折れそうなとき、黒い蝋燭にマッチで火をつける。 そしてぼんやりと炎を眺めている。 なんどか点けているうちに、梅の模様の何輪かは流れてしまった。 いまでは半分の長さだ。 薄暗い部屋の片隅で、初老の女が固まったように座っているのだ。 そんな私を見て、夫はギョッとしているだろう。 いやいや、ギョッなどという生易しいものではなく、薄気味悪がっているに違いない。 やがて私の心は平安に、滑らかになってゆく。 2018.5.18 |