川上恵(沙羅けい)の芸術村
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                 秋の唐招提寺



    好天の午後、歴史好きの友人と唐招提寺を訪ねた。
    友人は唐招提寺にかかる月が見たいという。
    「この天気だもの、きっと奇麗な月がみられるよ」
    と言いながら、薬師寺から唐招提寺へぶらぶらと歩く。
    まったく西の京の雰囲気は、西の京だけがかもしだす雰囲気だ。

    唐招提寺の近くまで来た時、私たちの足は止まった。
    白い花ばかりが店先に咲いている店があった。「蕎麦屋」である。
    なんともセンスの良い店主である。ちょうど新蕎麦の頃だ。迷わず店内に。
    美味しかったのは言うまでもない。しっかり蕎麦湯も頂いた。

    西の京に白色も似合うなあ。


    なんど訪れても唐招提寺の金堂の大屋根には感動をする。足が止まる。
    天平の昔から守り継がれている木造の建造物、中に座す毘盧遮那仏に千手観音……。
    奈良時代を今に残す日本人の価値観・感性・心意気に胸が熱くなる。
    頭が下がる。

    樹々の間から柔らかな秋の日射しが差し込み、なんとも心地が良い。
    日射しに誘われたのか、
    その日はいつもは歩かない境内の西の端を歩いてみた。
    なんと……、
    そこには私の知らない唐招提寺があるではないか。

    今も満々と水をたたえている大きな「醍醐井戸」、蓮池、そして戒壇。
    インドの古塔を模した宝塔が築かれた戒壇の、エキゾチックな美しさ。背後には竹藪が。
    清々しい空気が漂っている。
    鑑真が僧に授戒を授けるために来日をした、ゆかりの戒壇である。
    今まで何度も唐招提寺を訪れながら、それらを知らなかったとは……。

    ポツリと冷たいものが顔にかかった。と思う間もなく大雨に。雷鳴が聞こえる。

    「お母ちゃん、その雨女なんとかしないと。そのうち友達失うよ」
    息子の言葉が聞こえてきそうだ。


ホトトギス
白菊
フジバカマ
シュウメイギク

2023・10・25