川上恵(沙羅けい)の芸術村
 話のポケット
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                    トマトのジャム



    家を綺麗に整えて、手作りのお菓子やジャムを作る女性に憧れる。
    つまり私と正反対の女性である。

    今年の春、何人かから苺や伊予柑のジャムを貰った。
    「すごいね!ジャムの手作りなんて」と尊敬する私に、
    「ジャムなんて買うもんじゃないわよ。簡単に作れるんだから」と、彼女たちはのたまった。
    「……」

    なんと、
    今日、生れて初めてジャムなるものを作った。それもプチトマトの。

    貸農園に植えているプチトマトが豊作だ。
    ジュースにしたりサラダにしたりと美味しく食べているが、それでも毎日とれる量が
    半端じゃないのだ。草食動物を一頭飼いたいくらいである。
    プチトマトの種類はイエローアイコだったか、オレンジミニトマトだったか、説明書を捨てて
    しまったので分からない。綺麗な黄色である。


    スマホ片手に、初めてのチャレンジだ。
    湯剥きをして半分の大きさに切って、砂糖とレモンを加え煮詰める。
    とろみがついたところで味見。
    「めっちゃ美味しいやん! 甘みもいい頃合い」
    仄かにオレンジの香りがする。植えた苗はオレンジトマトだったのかな?
    さっそくパンやクラッカーにつけて食べてみる。
    上品で飽きのこない味だ、それに少しも青臭くない。上出来である。
    畑の世話をしている夫は満足そうだ。

    だが、
    ジャムがこうも簡単に出来ることに、私は嬉しさの反面、一抹の寂しさ呆気なさを感じた。
    私がいままで憧れ続けたのはなんだったのかと。

    ウイズコロナのこの時期、私は、面倒だといままで見向きもしなかった家庭内の事を
    面白がっている。
    それらは、私の知らない私を教えてくれるようだ。
    案外、主婦も向いているかもなあ。まだ伸びしろがあるなあ。




                2020.7.10