川上恵(沙羅けい)の芸術村
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                  小さな秋



    足を故障してから散歩ができなくなった。
    大好きな神社仏閣をたずねることもできない。
    ああ、こんなにいい天気なのに……山々はもううっすらと色づいているだろうか……
    イチョウは見ごろだろうか……

    そんな時、私は庭に出る。マイ庭である。
    狭い庭だがサンゴジュや観音竹、ツバキなどはしげるに任せてある。
    隅に小さな木の椅子を一脚置いている。
    そこに私は座る。茂った木々や生垣のカイズカイブキのおかげで、外から私の姿は見えない。
    たぶん。

    私は深呼吸をする。
    緑のせいで空気が濃い気がする。フィトンチッドが漂っている。気がする。
    自分では森林浴をしているつもりだ。
    空を見上げる、サンゴジュとツバキの間に真っ青な空が広がっている。
    「刷毛ではいたような雲だなあ。秋が来たんだなあ」
    私は嬉しくなる。
    観音竹の隙間から赤く色づいたピラカンサスがちらちらと見える。
    マイ庭に、一人前に秋がきたのだ。

    私はなんども深呼吸をする。フィトンチッドが鼻孔から流れ込む。
    緑豊かな郊外に出た気分である。

    何々のつもり。私はごっこ遊びの達人かもしれないなあ。
    気に入りの椅子からの風景である。



                  2024.10.22