川上恵(沙羅けい)の芸術村
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                     天王寺舞楽



    25菩薩が手にする、風雅な楽器の音色を聞いてみたいと思っていたら、いい塩梅に、
    「秦姓の舞・秦河勝と天王寺舞楽」を鑑賞することができた。
    場所はフェスティバルホールである。

    雅楽は聖徳太子が、妙音菩薩がひろめた音楽を、礼楽で天下を治め仏教を広めるために、 
    我が国に取り入れたものらしい。
    妙なる音楽を奏で舞う彼ら令人は、百済からの渡来人で、秦河勝が祖である。
    天王寺楽人を「秦氏楽人舞人」と呼ぶそうだが、やがて「林・東儀・岡・薗」の
    4家に別れる。
    
    幕が開くと、立派な宮殿に、左近の桜・右近の橘の背景が美しい。
    舞台の左右には楽人たちがゆったりと座し、楽器を奏でる。
    その音色の、心地良い響き。笙、篳篥(ひちりき)の高い音の合間合間の大太鼓や、
    軽妙な小太鼓。耳を澄ませば静かに流れる琵琶の音色……。

    なんと心に染み入る響きだろう。天上の音色とは、このようなものに違いない。
    シルクロードを越え、荒海を渡ってきた、西域の音である。
    オアシスの砂漠の潮風の、匂いや光景が広がる。

    過去にも舞楽や雅楽に接したことがあるが、今回の舞台は初めての事づくしだ。
    あんこ型の力士(近大の相撲部)が相撲を取り、舞人が皿を回し、3本の小刀を空中で
    扱うなどの曲芸を披露する。
    それら諸芸に、観客は静まり返り、やがて拍手喝采である。

    それらを散楽と呼ぶ。猿楽のルーツだ。
    やがてこの猿楽が発展して能や狂言を創り出すのだ。
    相撲の天覧試合のルーツも、茅の輪くぐりも、天王寺舞楽はその昔を伝えてくれる。
    舞楽とはなんと面白いものか。奥深いものか。雅で美しいものか。
    目から鱗である。

    「私の祖先は聖徳太子にお仕えした秦河勝です」
    聖徳太子1400年遠忌で誇らしげに語っておられた東儀秀樹さんの顔が浮かんだ。
    
    

                    2022.12.2