川上恵(沙羅けい)の芸術村
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                  当麻寺奥の院



    このまま紅葉を見ないで過ごすのは、勿体ないなあ……
    近間で、それに駅からそう遠くない所で、紅葉の美しい所はないかなあ……

    1人での遠出にまだ自信のない私は、当麻寺の奥の院に決めた。

    案の定、紅葉は終わっていたが、奥の院には人影もなく静寂が心地いい。
    二上山を背景に、浄土庭園には山茶花が咲き、不断桜が雪のように咲き、宝池の水面には
    伽藍の屋根が浮かんでいる。

    散紅葉が敷き詰められた絨毯を歩く、この時期ならではの贅沢、面白さ。

    庭園を堪能したあと、
    美味しいお菓子を残しておいた子供のように、私はゆっくりと宝物館に向かう。
    久し振りのお目当てに、会いに行くのだ。
    宝物館にも人影はなかった。
    このひと時は、大好きな25菩薩来迎象を独り占めだ。なんという濃密な時間だろう。
    菩薩の体のしなやかなくねり、手にする雅楽器や仏具の数々。菩薩たちは笑顔だ。
    菩薩たちが奏でる浄土の音色を聞いてみたいものだ。

    ガラス扉の前に張り付きながら、菩薩から目が離せない。




              2022.11.25