川上恵(沙羅けい)の芸術村
 話のポケット
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                素敵な人


    小春日和の午後、川原を散歩していたら、素敵な人を見た。
    80歳ぐらいだろうか、特にお洒落でもなく普通の格好をしている。
    1人で散歩をしたり、魚釣りをしているお爺さんはよく見かけるが、お婆さんの1人は
    珍しい。
    というよりお婆さんは、1人で河原へ遊びに来たりはしないのだ。
    
    彼女は川面に向いたベンチに座って、お弁当を食べていた。
    スーパーで買ってきたのだろう、白いビニール袋にはペットボトルのお茶も入っている。
    気持ちのいい午後である。家の中で1人で食べるより、外で食べたいと思ったのだろう。
    その思考と行動に、私はニンマリとしてしまう。
    
    彼女は美味しそうに弁当を頬張っている。
    1人なのに少しも惨めな感じはなく、寂しそうでもない。
    時おり太陽に向かって顎を上げ、気持ちよさげに目を閉じては、また箸を動かす。
    1人の食事を満喫しているようだった。

    「いいなあ……。私の未来に希望が持てるな」
    私は彼女のそばに行って、話しかけたくなった。
    だが止めた。
    贅沢なランチの邪魔をしてはいけないような気がした。

    1人が様になっているお婆さんだった。
    毅然とした空気を纏ったお婆さんだった。


              2020.3.2