川上恵(沙羅けい)の芸術村
 話のポケット
エッセー  旅  たわごと    雑感 出版紹介 
               



                  筋金入りの



    雨女である。それも筋金入りの。
    近年、ますますその威力に磨きがかかってきたようだ。
    流石に少しはわきまえているのか、プライベートな旅行に限るのはまだ救いがあると
    いうものだ。

    久しぶりに蟹が食べたくなって、北陸の加賀に行くことにした。
    8日の朝、前夜からの大雨は嘘のようにやみ、首を傾げながらも嬉々とサンダーバードに
    乗りこんだ。
    車窓を優しい冬陽の京都、穏やかな琵琶湖が流れてゆく。
    乗り鉄の私は、車窓を眺めていると上機嫌である。
    今年から雨女が晴れ女に変わったのかと思っていたら、
    「金沢方面に暴風が吹き荒れています。この列車も途中で止まる可能性があります。
    ご了承ください」と、慌てた様子の車内アナウンスが流れた。

    「やっぱりなあ、おかしいと思った」
    私はビールを飲みながら時間をやり過ごす。
    列車は停車したまま、動く気配をみせない。

    列車が強風で立ち往生するのは、今回が初めてではない。
    2016年に定期運行が廃止されると言うので、カシオペア寝台特急に乗るべく
    青森まで行った。
    しかし突然の強風で運休となり、車体だけを見て泣く泣くルートを変えた事がある。
    紀勢本線でも何度か暴風雨で、アクシデントの憂き目にあっている。
    だがいずれも、素早い対応のとれる添乗員だった。
    
    福井駅で、立ち往生が2時間になろうとしたとき、短気な私は添乗員に、
    「バス便か何かに変更はできないんですか?」
    すると「本社からまだその指示はありませんので」という返事だった。
    達観しているのか、乗客たちはみんな静かである。

    結局、缶詰状態が2時間半を越えた頃、バス便での移動となった。
    

    10年以上昔の事だ。
    蟹大好き人間の私は、一生に一度ぐらいこんな散財も許されるだろうと、
    山陰へ最高級の蟹のフルコースを食べに行った。
    喉をのけぞらせ食べる刺身の美味しいこと、濃厚なカニ味噌の甲羅焼、しゃぶしゃぶ、
    甲羅酒……。
    ところがである、根が貧乏性に出来ているのか、焼きガニ辺りから食欲が怪しくなってきた。
    充満しているカニの匂いに、体が拒絶反応を起こしてしまったのだ。
    以来、カニの匂いはもちろん見るのも嫌になった。

    昨年の事である。
    子供の頃おやつのように食べていた勢子ガニが、急に食べたくなったのだ。
    熟し柿色をしたの内子の旨さ、プチプチとした外子の食感。
    カニを食べたいと思ったのは、実に10数年ぶりだった。
    
    今回は、復帰戦の北陸行きだった。
    会席は、カニよりブリの刺身が美味しかった。
    お手軽旅行では列車の対応も、カニの味も、そう文句は言えないなあ。
    
    雨女は今年も健在である。
    



                 2020.1.8