川上恵(沙羅けい)の芸術村
 話のポケット
ホーム  エッセー  旅  たわごと    雑感 出版紹介 



                    尊敬する



   90歳に近い友人がいる。
   最近の彼女の悩みは、新しいパソコンを上手く使いこなせない事らしい。
   「試行錯誤の連続で、もう肩が凝って、凝って」
   
   4台目のパソコンだそうだ。
   新パソコンには取り扱い説明書の冊子がついていないそうだ。
   分からない事は、パソコンに内蔵されているデーターで調べる仕組みだ。
   文章を打ち込んでいる途中で不明な点が出てくる。
   はたとキーを打つ手が止まる。
   「分からないなあ、賢すぎるパソコンは難儀やなあ。機械も人間もほどほどに賢いのが
   ええなあ」
   (彼女はそう思ったかどうかは疑問だが)
   問題解決のため別の画面をよびだしているうちに、画面も頭の中もグチャグチャになると言う。

   傍には、手取り足取り教えてくれる人はいない。
   だが彼女は決して、グチや泣き言を言わない。

   なぜ、そこまでパソコンに拘るかというと、
   エッセー教室に通っている彼女は、パソコンが使えないと、作品を作れないのだ。
   手ぶらで教室には行きたくないのだ。それが彼女の心意気なのだ。
   先日、彼女を交えた友人たちでお茶をしていた時、
   「ちょっと私、一足先に失礼しますね。これから買い物に行きたいねん」
   「何を買いに行くの?」
   「パソコンの本よ!」

   90間近にして、この悩み、この心意気。そしてこの解決法。
   これを尊敬せずして、何を尊敬するのだ!


                   2018.10.14