川上恵(沙羅けい)の芸術村
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                 四天王寺門前



    「釣鐘饅頭」が不意に食べたくなる時がある。
    この暑いのに、カステラ生地にこし餡を包み込んだ饅頭をである。
    百貨店でも売られているが、私は四天王寺門前の釣鐘屋の釣鐘饅頭が食べたい。 

    饅頭が作られた由来も美味しいのだ。

    明治期に四天王寺が発表した「世界一の釣鐘」鋳造プロジェクト。
    門前町の商人たちは喜び、四天王寺さんと一緒にこの大事業を盛り上げようと、
    発奮したそうだ。
    釣鐘屋の初代もその1人である。
    100年以上たった今も、初心と至誠を貫き四天王寺の西門前で商っているのだ。
    朝な夕な、私はこの店の前を通り通学をした。
    饅頭や釣鐘カステラや玉子せんべいを焼く、美味しい匂いが店先に流れていた。
    店のつくりも屋根に釣鐘が乗せられていて趣がある。

    控えめな甘さの素朴な美味しさである。


    1年に1度か2度、無性に猛烈に、チキンラーメンが食べたくなる日がある。
    あの、いかにもインスタントラーメンです、という直接的な味がたまらない。
    お湯を注ぐだけで3分、というシンプルさも好きだ。
    私は 卵もネギも入れないで食べる。
    
    チキンラーメンは1958年の誕生だ。世界で一番最初のインスタントラーメンだ。
    初めて食べた日の衝撃は忘れられない。
    真ん中の切れ目を割り、1つのラーメンを弟と半分っこにして食べた。
    美味しすぎて半分っこのラーメンは、あっという間になくなった。

    「ああ、この味、この味。懐かしいな、美味しいな」
    この1杯で、1年間、胃袋は満足するのである。

    目新しいもの、美味しいものがあふれているのに、無性に食べたくなるのは、
    はったい粉であったり、釣鐘饅頭だったりチキンラーメンだったりと、昔ながらのもの
    なのは不思議なことである。貧乏性なのかなあ。




                  2021.8.2