川上恵(沙羅けい)の芸術村
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                   締めくくり



    「乾杯!」、グラスを合わせるまねごとをする。
    奈良の割烹店で、6名のごくごく小さな忘年会だ。
    みんな笑顔笑顔笑顔である。誰もが待ち望んだ日。
    「これで1年の締めくくりができますね」

    仲間って、なんて素敵なんだろう。
    20年をかけて作り上げた仲間の、なんと心地のいい事。
    守られ、許され、労わられている実感。新しい仲間もすっかり古参な感じなのもいい。
    料理もお酒もとびっきりの美味しさだった。
    鬼のいぬまの洗濯ではないが、コロナのいぬまの華やぎである。
    日常ってこんなにもありがたかったんだなあ……。


    それとは別に、2人っきりの食事会も奈良だった。

    ずいぶん以前から気になっていた場所だった。
    いつ前を通っても重機が入り、覆いの奥で工事がされていた。
    何が出来るのだろう。完成したらきっと来ようと決めていた。

    「ふふ奈良」である。
    ところがコロナ禍で、キャンセルをしたりと伸び伸びになり、やっと念願が叶った。
    広い庭にホテルとレストラン。
    端正な庭には遊歩道がついていて、茶室も置かれている。
    遊歩道を歩くとき、息子は私の鞄とコートをさりげなく手にした。
    
    乾杯! 私は洒落たグラスで生ビール、息子は偽物ビールだ。
    「おそまきの誕生会だけれど、おめでとう!」
    「ありがとう。今年1年のいい締めくくりが出来たよ」
    「来年の行きたいところを考えといてよ」
    「うん」

    こんなに幸せでいいのかな、と柄にもなく殊勝な気持ちになるひと時である。

 ふふ奈良
忘年会の花束

           2021.12.11