川上恵(沙羅けい)の芸術村
 話のポケット
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             幸せを感じるとき


    わあ!雪柳が芽吹いている。
    黄緑色の小さな小さな、まだ葉ともいえない葉が清々しい。
    それに、なんと米粒ほどの花までが数輪ついている。
    偉いねえ、枯れ枝のような頼りなく細い枝なのにねえ。
    か弱い雪柳から、小さな感動をもらう。
    こういう時だ、私が幸せを感じるのは。

    うん、OK!
    料理の、特に煮物の味が1度で決まったとき、小さくガッツポーズをする。
    面倒くさがりの私は、計量カップや計量スプーンの類は使わない。
    味見をするとき、一瞬、精神を舌に集中する。小さな真剣勝負である。
    あくまで舌だけが頼りだ。
    目も耳も鼻も怪しいのに、味付けだけは、まだいけてるなあ。
    「まずい料理屋より、美味しい」と、自画自賛する。
    私が幸せを感じるのは、こういう時だ。

    新しい石鹸を箱から出し、包み紙をはがす。
    それを手にお風呂場に入る。
    浴室に広がる清潔な匂い。
    湯気の細かい粒子の1粒1粒に、石鹸が溶け込む。
    清潔な匂いというのは格別だ。バラよりも百合よりもジャスミン……諸々の香りよりもだ。
    「シ、ア、ワ、セ」
    湯につかりながら、人前では恥ずかしくて、とうてい口にできない言葉を呟いてみる。

    
    幸せって、「楽しい」や「面白い」とは、ちょっと違うんだなあ……。
    それにしても、私ってなんとも安上がりにできた女だなあ。
    
    
                       2019.3.5