川上恵(沙羅けい)の芸術村
 話のポケット
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         世界は広いな、綺麗だな



    「世界民族衣装サミット」を見てきた。
    市田ひろみさんが40年以上をかけて、100か国を越える世界各国の民族衣装を
    収集したという。
    素朴な普段着から婚礼衣装まで、息をのむ華麗さである。
    女たちが思いを込めて、1針1針縫いあげた衣装たち。
    彼女たちの手の動き、笑い声、息遣いが聞こえてきそうだ。
    その刺繍や染や織の、気が遠くなるほどの綿密さ。
    「人間、うつむいて手さえ動かしていたら、間違いがないねんで」
    祖母の言葉が甦る。
    

    友人が亡くなって1年になる。
    上海の博物館へ行った時のことだ。少数民族の衣装が展示されていた。
    カラフルな色彩に精緻な刺繍が見事だった。
    とつぜん彼女は、胸を押さえてちょっと苦しいと言った。
    「大丈夫」と心配する私に、私ね、綺麗なものを見ると興奮して息が苦しくなるの。
    と、ガラスケースに顔を押し付けるように見入っていた。

    心臓が悪かったんだね。気づかずにごめんね。
    今日は私の「貴女を偲ぶ会」です。
    世界の民族衣装に囲まれながら、彼女を思い出していた。
    



               2019・7・1