川上恵(沙羅けい)の芸術村
 話のポケット
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   パソコンの休眠中の河内再発見です。
   時間的なズレがあると思いますが、シリーズなのでご容赦下さい。
 

        河内再発見

 
                     パチもんでんねん

   正月(2016)早々の新聞広告には驚いた。
   「わあっ、びっくりした!」と、声をあげたぐらいだ。
   紙面一杯に茶色の円盤状のものが、4本の長いひげを垂らして、正面を見据えていた。

   全面広告の背景は黒褐色。そこに白抜きで、
   「近大発のパチもんでんねん」と、ナマズが啖呵を切っているのだ。
   ひょうひょうとした顔ながら大きな口を真一文字に結び、新年の口上を述べている。

   正月からにゅるっと失礼します。
   わて、近大生まれのうなぎのパチもん、「うなぎ味のナマズですねん」
   今、二ホンウナギが絶滅しかかっとるんで、わてが開発されたんですわ。
   そういえば、近大がクロマグロの完全養殖に挑んだ時も、
   「しょせん、養殖」って、パチもん扱いやったそうですわ。
   でも今や、天然より美味しんちゃうの!と、もっぱらの評判。
   パチもんって言われたんが、いつかホンマもんを越えて……。

   近大も旧態依然とした大学界から見たらパチもん?的な存在かもしれまへん。
   せやけど、今、ものすごい勢いで伸びてはりますなぁ。
   この勢いでホンマ変えまっせ、古くさい大学界なんて。
   パチもん、なめとったらあきまへんで。

   「めっちゃ面白い、さすが河内の広告やなあ」
   近畿大学は東大阪市、つまり中河内にある。
 
   大笑いのあと、感心を通り越し感動めいたものさえ覚えた。めったに、こんな広告に
   お目にかかれるものではない。
   自分をパチもんといってのけるサービス精神、面白がりの目立ちたがり、泥くささ、
   そして奥にひそむ自負。まさに河内の気質である。

   だがこの自負心、むやみには見せない。自慢げなのは野暮だ、みっともない。
   自分を軽妙に貶めてナンボである。だが決して卑下ではない。卑下は暗い。

   じっと見つめていると、ナマズがなんだか可愛く見えてきた。
   離れた黒いビー玉のような目玉が愛嬌だ。

   パチもんとは、俗に偽物のことで、語源は大阪弁のパチる(盗む)から、
   パチった物 パチもんとなったようである。

   「頑張りや、今年の夏はパチもんのうな丼をたべるから。
   美味しいうな丼になってや!」
   私は紙面に向かってエールを送った。

   
   以来、私は近大発の広告が気になって仕方がない。
   調べてみると、あるわ、あるわ、エスプリの効いたのが。

   2015年の広告は、マグロの横顔のアップである。
   流し目ともとれる目玉が、読者を見つめている。
   バックは海を思わせる濃いブルーに、やはり白抜きで、
   「マグロ大学って言うてるヤツ、誰や?」と、口を開いている。

   私と目があった、そこのアナタ。
   マグロが偉そーに、すみません。が、ここで見つめあったのも何かの縁。
   ちょっとだけ聞いて下さい。
   近大にはマグロと並ぶ、ていうかそれ以上の研究成果もゴロゴロあるのに、
   マグロだけと思われているフシがある。これは、あかんやん!
   ワタシは近大のすんごいところをもっともっと伝えて、関西トップの私立大学
   へと引っ張っていきたいのです。
   「マグロ大学」から「マグロどころじゃない大学」へ。
   私、近大マグロ。今年も走り続け……いや、泳ぎ続けます!

   この広告は複数の広告賞を受賞している。

   こうなったら、2014年の年頭の決意表明も紹介しておこう。

   富士山とおぼしき山の火口から、マグロが顔を突き出し、
   「固定観念を、ぶっ壊す」と叫んでいる。
   目玉は天を見据えている。

   不可能を可能にするのが研究だ。に始まり、クロマグロの完全養殖に挑み、
   時には笑われ、バカにされ……それでも、諦めなかった。
   そんな近大がいま、「大学の序列に挑んでいる」
   笑うやつも、バカにするやつも、いるかもしれない。しかし我々は、不屈の精神で、
   やり遂げる。古くさい固定概念を、ぶっ壊す。
   と勇ましい。

   この広告も複数の広告賞やデザイン賞を得ている。
   ふと、自民党をぶっ壊すと言った、小泉元首相を思い出した。
   元気にしたはるねんやろか。

   近畿大学の顔といえば、元ボクサーの赤井英和が有名だ。
   近大では2016年4月に、国際学部が開設されるそうだ。
   その広告が、これまたくすりと笑わせる。

   「いきなり世界戦や。2016・4・1 GONG」
   「本気やなかったら、けっこうてこずるで」
   「その減らず口、英語でいえるんか?」
   「これで英語できんかったら、よっぽどやで」
   「ワシには無理」
   と、5パターンが制作されている。

   二言目には近大のボクシング部を口にする難波のロッキーは、
   母校思いの広告塔である。
   彼は本物だ。もちろん、つんく♂ も。

   優しい人でありたいと思う。
   心の広い人でありたいと思う。
   だが所詮、私はパチもんだ。
   近大マグロとは違い、一生パチもんだろうな。