川上恵(沙羅けい)の芸術村
 話のポケット
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                   大人時間



    大人になって、分かった事がある。
    それは年を重ねるごとに顕著になってゆく。

    時間が早く過ぎるのだ。 なんにもしていないのに時間が過ぎる。
    特に今の時期は、食べて寝てテレビを見ているだけなのに、それでも気がつくと一週間が
    過ぎている。週単位なのだ。
    「飛ぶように時間が過ぎる」というが、あながち大げさでもないのだ。

    お正月はついこの間だったのに、気づけばもう4月も半ば。

    子供のころ、一日中寝ているお爺さんや、縁側で日がなうとうとしながら過ごしている
    お婆さんを見て、気の毒に思ったものだ。
    気が変になるほど、一日が長いだろうな。特別楽しいこともなく、悲しいこともなく、
    同じことの繰り返しで、泣きたいほど退屈だろうなと。

    ところが、いざ自分がその立場になってみると、なんのなんの。
    何もしなくても時間は恐ろしいほどのスピードで、貴重な残りの人生を奪ってゆく。
    どうして子供のころはあんなに時間が過ぎるのが遅かったのだろう。
    日曜日を待ちかねて、木曜日までの長かった事、長かった事。
    待ち過ぎて、1日・1週間・1ヶ月がなかなか過ぎない、はるか先の遠足や運動会や
    林間学校……。

    そうだ、待つことがなくなったのだ!
    あと何日と指折り数え、心ときめかすことがなくなったのだ。
    

    「大人時間」と「子供時間」というのがあるそうだ。
    れっきとした学問で、「ジャネーの法則」と呼ばれ、フランスの哲学者のポール・ジャネーが
    考え出した法則である。
    それによると、人間の体感時間は、それまで生きてきた年齢に反比例するそうだ。
    例えば5歳の子供と30歳の大人では、子供の体感時間は大人の6倍以上の長さだそうだ。
 
    また別の説では、身体の代謝の状態が影響するというのもある。
    年をとると心の時計のゼンマイも緩くなって、時間の経過を早く感じるらしい。

    なるほど。

    待つことや初めての体験が減った事が、時間の経過を早めていたのだ。
    ならば時間のスピードを遅くするのは簡単だ。
    心臓には悪いが、ハラハラドキドキを増やすことだ。
 
    さあ、私は何を待つことにしようか。
    何にハラハラドキドキしようか。
    なんだか楽しくなってきたなあ。時計のネジを巻かなきゃ!

                    2020.4.17