川上恵(沙羅けい)の芸術村
 話のポケット
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                 男友達



   ここのところ私を悩ましていた心配事が片付いた。
   パーティーはまだ続いているが、私は会場をそっと抜けだした。
   1人になりたかった。1人になってこの安堵感をかみしめたかった。

   静かにコーヒーが飲みたくなり、駅近くのカフェに入った。
   大きなガラス窓の下を何本ものレールが交差し、電車が行きかう。
   遠くで小さな明かりが見えたかと思うと、次第に明かりは大きくなって近づいて来る。
   そして窓の下あたりで速度を落とす。
   夜を走る電車は昼の電車とは異なり、感傷を運んでくる。
 

   お酒に酔っているのだろうか。
   それとも心配事からの解放感に酔っているのだろうか。
   甘やかなものが、じわじわと胸に広がる。
   なぜか電車のライトが滲んで見える。
   

   「久しぶり。別に用事はないの、でもちょっと酔ってるかな」
   「酔った時に電話をくれるなんて、嬉しいですよ。で、いまどこにいるんですか。
   何があったんですか」
   「電車の見える喫茶店にいるの」
   「今から行きましょうか?」
   「ううん、1人がいいの」
   
   それからも長い時間、私は電車を見ていた。
  
   深夜、パソコンを開くとメールが入っていた。

   外から帰ったら、少し水を飲むと風邪などの予防になるらしいですよ。
   緑茶はいいけど、アルコールはダメですよ。

   
                        2019.1.30