川上恵(沙羅けい)の芸術村
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                 御敷(おしき) 1



    NHKテレビ「美の壺」で御敷を放映していた。
    御敷とはお盆のようなものである。
    片ずいた座敷の机には御敷が置かれ、一汁一菜の料理やお茶とお菓子が盛られている。
    なんとも奥ゆかしく、美味しそうである。なにより美しい。
    座敷に映りこむ庭の緑も、このうえなく風情がある。
    
    我が家には、母が茶道をしていたので、御敷や勝手盆の類が多くある。

    御敷か……、私の良心は痛む。
    置物や花瓶の下に、御敷を敷いているのだ。
    縁の高いお盆にはガラクタを入れている。
    同じ御敷でも、「美の壺」の御敷とは大違いだ。我が家の扱い方は虐待だ。
    茶道具を集めた母は、あの世で嘆いていることだろう。
    それとも、めえちゃんのしそうなことだと諦めているだろうか。

    私は自分を恥じた。
    さっそく置物や花瓶の下から御敷を取り出した。
    案の定、塗の光沢は色あせて、風雅さも何もあったものではない。
    道具にもプライドがあるだろうに……。
    決めた! 明日の朝食から御敷を使おう。
    パンとコーヒーとチーズとヨーグルトだけの簡単な朝食だけれど。
    
    今日は2月19日、母の月命日である。

    

                  2022.2.19