川上恵(沙羅けい)の芸術村
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               正統派・お子様ランチ



    「チキンライスに旗を立てた、お子様ランチが食べたい」
    事あるごとに私が言うので、どこかのレストランで見かけたと息子が買って来てくれた。

    これこれ、まさしく、これ! 私が食べたいのは。
    チキンライスに旗、小ぶりのハンバーグ、エビフライ、唐揚げに、ポテトサラダ・
    ポテトフライ。瓶に入ったプリンもついている。
    王道のお子様ランチだ。

    これはどこの国旗かなと言いながら、さっそくエビフライから。

    「なんでそんなにお子様ランチが食べたいの?」息子は聞く。
    「うーん、なんでかな?郷愁かな。子供の頃の百貨店の大食堂を思い出すねん」
    当時の百貨店はいまでいうテーマパークだった。
    1階から7階までくまなく歩き回り、おもちゃ売り場は再度見て回り、そしておもむろに
    7階の大食堂へ。

    お子様ランチ、カツサンド、クリームソーダ、ホットケーキ、カレーライス……
    目移りがする。
    小学高学年の私と従姉妹は、食券売り場の前で迷ったあげく、いつも
    カツサンドとクリームソーダの券を買った。
    おませな私たちは大人ぶりたかったのだ。
    だが隣りの席で子供が食べているお子様ランチの美味しそうなこと。
    旗は確か日の丸だった。
    食べてみたいなあ、いつも私は思うのだった。

    食事のあとは本日のビッグイベント、フィナーレの屋上だ。
    小さな観覧車・メリーゴーランド・ミニゴーカート・子供の汽車・金魚すくい……。
    私達は疲れることを知らずに遊んだ。
    遊びの最後は観覧車だ。
    観覧車は乗る箱が10もなかったが、遠くまで見晴らせた。
    やがて西の空が赤くなって、私と従姉妹は言葉少なになる。
    「もう帰らんと」

    今は何時までも遊べるのに、好きなだけ遊べるのに……。
    あの頃の凝縮した、胸が痛くなるようなときめきが懐かしい。

    お子様ランチを食べると、少しだけ小学生に戻れる。心がほの温かくなる。
    今も屋上遊園地はあるのだろうか。
    



               

                2021.11.22