川上恵(沙羅けい)の芸術村
 話のポケット
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                 お気に入りの場所



    狭い狭い庭に、自分の居場所をつくった。
    もっとも木の椅子を一脚置いただけだが。

    手の届きそうなところに、いや実際届くところに、
    椿、サクランボの木、雪柳、観音竹、珊瑚樹、ピラカンサス、ウバメガシ、北東の鬼門には
    柊が、ぎゅうぎゅうづめに植わっている。
    そして足元には5鉢の蘭や雑多な草花。そして金魚鉢。

    椅子に座って深呼吸をする。
    想像力豊かな私は、まるで深山の空気を吸っている気分だ。
    庭の前はカイヅカイブキの垣根なので、外から見える心配はない。
    玄関からたった数歩の、緑色に包まれた小さな空間は、私だけの遊び場。
    私だけを癒してくれる場所。
    子供の頃の秘密の遊び場の感覚に、似ているかもしれない。

    サクランボが赤く色づいている。鳥がやって来てついばんでいる。
    私はただぼんやりとそれを眺めている。
    ゆるゆると時間が流れる。心が満足をしている。
    こんなことで幸せを感じられる私って……と、もう1人の私が呆れたように呟いている。
    
    今のところ一番の気に入りの場所である。


             2022.5.11