川上恵(沙羅けい)の芸術村 | ||||||||
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驚いた! 福岡県の八女市で、「黒木の大藤」の花房が切り取られたというニュースを見て、 正直、驚いた。 花を育てた人が、盛りの花を切るのである。コロナウイルス感染防止のために。 「八女黒木大藤まつり」を中止したにもかかわらず、県外から観光客が訪れ、 土日の人出は2千人に上ったため、「密」を避けるための苦渋の決断だそうだ。 藤は天然記念物で、樹齢600年である。 他に方法はなかったのかと思う。 それにしても、人間はそこまで聞き分けのない子供になってしまったのか。 我慢をする、自分を律する、抑制する……、そのような心根はなくなって しまったのだろうか。 あるいは自分1人ぐらい行っても大丈夫だろうと、自己中心になってしまったのか。 あるいは、あるいは、主催者側からの「中止」の知らせは、どの程度のものだったのだろう、 甘くはなかったのか。県外の人達に届いたのだろうか。 なるほど花房をすべて切ってしまえば見物の人は来なくなるだろう。 いちばん手っ取り早い手段だ。 だが、その解決策でいいのだろうか。良かったのだろうか。 安易な解決策に、考えさせられるニュースだった。 29日は藤の花で知られる葛井寺で、イベントが行われる予定だったが、 自粛で取り止めとなった。 だが、自粛中も30分ほどの散歩は許されるという。 私は1人で葛井寺を訪ねた。人はまばらで誰もが藤の花だけを楽しんでいる。 真っ青な空の下に、紫や白い藤が長い房を垂らし美しかった。 アブが羽音を立てながら飛び交っている。 毎年と同じ光景が広がっている。 ふといま起きているコロナ禍は、夢の中の出来事ではないのかと、不思議な感覚に捉われた。 静かな午後の昼下がり、甘い藤の香りが境内に充満している。 2020.4.29 |