川上恵(沙羅けい)の芸術村
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                     呪能


    今年の天王寺舞楽の演目は「呪能」である。
    呪いという言葉にギョッとするが、何やら神秘的で夢現の舞台だろうかと開演を待った。
 
    2部構成である。
    1部は「神霊動かす祈雨の奏楽」である。
    源氏物語の紅葉賀で光源氏が頭中将と舞った「青海波」が、管弦で演奏された。
    文字が水に関わるので、祈雨の祈祷としてこの曲が選ばれるそうだ。
    青海波の調べに乗って舞われるのは、安摩と二ノ舞。

    安摩は呪術的な力を持つ舞で、舞人は「雑面」と呼ばれる不思議な人面の布をかぶり、
    時には荒ぶる神に化身したかのように激しく舞台を駆け巡る。
    次に舞われるニノ舞は滑稽もので、安摩のまねをして舞うのだが、平安時代には卑賎視された
    天王寺楽人がもっぱら担当させられていたそうである。

    【差別はいつの時代にもあるのだなあ……。恐ろしや恐ろしや】
    
    人のまねをして、その人がした失敗と同じ失敗をすることを「ニノ舞を踏む」と言うが、
    この語源になった舞であるらしい。
    日照り続きで雨乞いをするのだが、今度は雨が降り過ぎて……、という話である。

    【雨女の私に声を掛けてくれたら、簡単に雨を降らせてあげたのに】

    
    2部は「聖霊会の呪能」と題して、
    まずは、鉾を振って場の邪気を祓い清浄に保つという「振鉾」。
    次に、四天王寺の六時堂内に眠る聖徳太子の霊を覚醒させる呪力を持つ「蘇利古」。
    別名、「太子お目覚めの舞」が舞われた。
    やがて、厨子の扉が開き、そこには太子のお姿が……。
    そして「太平楽急」と舞楽は続いた。
    楽人に女性の姿がチラホラと見えるのは嬉しいことである。

    約2時間半の優雅な呪いの世界であった。
    笙・篳篥・竜笛・太鼓などの音色が年々心地よくなるのは、何故だろう。
    フェスティバルホールを出ると、街はすっかりクリスマスの輝きだった。
    



            2023.11.27