川上恵(沙羅けい)の芸術村
 話のポケット
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                 野間の大ケヤキ



    今年の誕生日会はどこに行きたい?
    お約束通りの言葉を、お約束通りに息子は聞いた。
    「野間の大ケヤキにいきたい!!」。待ってましたとばかり私は即答する

    巨樹が大好きだ。
    太い幹に触れていると、ドクドクと幹の中を血液ならぬ水分が、根から上がってくる気配が
    伝わってくる気がする。ドクドクドクドク……。
    おしなべて巨樹の幹は暖かい。
    その幹を両手で抱き、頬を寄せると、巨樹の生命力が私の体に流れ込む気がする。

    健康を願う私の祈りである。

    だが、野間の大ケヤキの周りには柵が巡らされ、直接、幹に触れることができない。
    「わあ、残念!」
    五月の大ケヤキは緑色のしずくを滴らせている。
    代わりに私は新緑のシャワーを思い切り浴びた。
    
    大ケヤキの樹齢は1000年を越すという。
    平安時代からこの場所にずっと立っているのか、すごいなあ。
    昔、この場所には「蟻無神社」があったそうだ。ご祭神は、かの紀貫之である。
    幹回り14m、高さ30m、枝張り南北38m、東西42mの見事なご神木は、国の天然記念物
    に指定されている。(大阪府豊能郡能勢町野間稲地)
    
    そのご神木に、毎年、アオバズクが営巣にやってくる。
    5月の中頃、まだヒナは生まれていなかったが、望遠鏡からのぞくアオバズクは、
    枝にとまったままコソリとも動かない。
    「哲学者のような顔をしてるなあ……」
    
    青空の下、あまりの心地よさに、私は大ケヤキの下から離れられない。
    息子はそんな母親に根気よく付き合っている。
   
    あれっ、そういえば今年は雨が降らなかったなあ……。
    


             
                    2024.5.18