川上恵(沙羅けい)の芸術村
 話のポケット
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                   値切る


 
   今日は忙しい日だった。3軒、はしごをした。
   1軒目は、心臓の24時間ホルダーを外すための病院。
   2軒目は、歯科医院。
   3軒目は、耳鼻咽喉科医院。
   
   売れっ子の芸能人並みの忙しさだ。
   前日には、眼科医院だった。

   まるで病院に行くために生きているようなものだと、可笑しくなってくる。
   そして、歳を重ねるとは、こういう事だったのかと、自嘲気味に悟るのである。

   
   「8000歩、歩きましょうか」
   「週に2度ほどですか?」
   「いいえ、毎日」
   「ヒエー、とてもそれは無理です」
   「じゃあ、6000歩」
   「それでも、とても無理です。もっと少なくなりませんか、せめて3、4000歩」
   買い物をで値切っているような感覚で、先生にかけあった。

   医者は笑いながら、
   「いいでしょ、まずはそれくらいから始めましょう」
   8000歩は無理だと、最初から分かっていたに違いない。
   私の性格を読んでおられるのだ。

   医者は吹っ掛け、私は値切る。
   
   医院からの帰り、今日はよく頑張ったと、ちょっと豪勢な外食にした。
   食欲不振が続いているが、この日はワインが飲みたいと思った。
   「明日から歩くために、乾杯!」
   デザートのケーキも食べた。
   甘いものは控えましょうと、さっき言われたばかりなのに。
   『はいはい、明日から控えます』

   万歩計も新しいのに買い替えた。
   歩数を値切ってから3日が経つのに、まだ万歩計の出番はない。
   こんなに秋晴れが続くのに。


                         2018.11.8