川上恵(沙羅けい)の芸術村
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              泣澤女神(なきさわのめがみ)


    泣澤女神という、なんとも素敵な名前の神がおわす。
    イザナミは火の神であるカグツチを産んで火傷をおい亡くなってしまう。
    イザナギはその死を泣き悲しむのだが、なんと、その涙から水の神が産まれたという。
    泣澤女神である。
    女神は香久山の麓の木の下、畝尾都多本神社(うねおつたもとじんじゃ)に座すという。

    いたくこの話に魅了された私は、今回も歴史好きの友人と、女神に会いに明日香を訪ねた。
    木々に包まれたひなびた神社は、こぢんまりとしていて人っ子ひとりいない。
    いるのは泣澤女神だけだ。
    
    そして時折の鳥の声。

    拝殿の後方には泣澤という井戸があり、その井戸がご神体として祀られている。
    井戸の中には女神が流した涙が……と言われているが、井戸を覗くことはできない。
    雨女の私は、水の神に惹かれる。
    女神は延命の神、命乞いの神であるらしい。
    それにしても、なんともロマンティックな女神ではあるまいか。
    
 
    延命の神様にお参りしたのだから、折角だから「長寿道」を歩こうよ。
    ということで、おふさ観音まで足を伸ばした。
    「わあ!」、なんと風鈴のお寺は提灯に彩られ華やかだ。秋バラが微かに香っている。
    和風の提灯はもとより、中国風のがあり、猫提灯あり、子供の掌に乗りそうな
    ミニ提灯があり……。
    毎日ではないが、夜にはライトアップされるそうだ。
    
    涙の女神と薔薇の香り、なんとも麗しい組み合わせの一日だなあ。



              2023.11.15