川上恵(沙羅けい)の芸術村
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                   三津寺筋



   友人の写真展に行ってきた。
   もう33年も続いている、プロ集団の写真展だ。
   夕方になると小さなパーティーが始まる。
   全国の珍しい地酒の数々、それに昨夜は黒門市場のマグロやお寿司がテーブルに並んだ。
   写真を眺めながらの酒宴、この上ない贅沢だ。
   心地よい雰囲気に浸りながら、ふと三津寺筋の古いギャラリーの事を思い出していた。

   大阪では1、2番目に古い老舗の画廊で、油絵を習っていた。
   個人レッスンだった。
   絵の具の混ぜ方も分からないずぶの素人だったが、先生は超一流だった。
   画廊のオーナーもその道では知れた人だった。
   線のひき方から始まり、デッサン、静物……。
   画廊の3階で、私は真剣にイーゼルに向かったものだった。

   やがて、
   夕方になると、どこからともなく絵描きや写真家たちが、画廊の一階に集まってくる。
   そして湯飲みやコップを手に、酒盛りが始まるのだった。
   一升瓶にコップ酒、それはまさに「酒盛り」だった。匂いだけで酔えるくらいだ。
   会の名前に「盃」の一文字をいれるぐらい、徹底した酒飲み集団だった。
   画家たちの大半はプロで、なぜか1人素人の私が紛れ込んでいた。

   画廊の両隣はスナックで、ネオン街の真っ只中にあった。
   次第に私は、画よりもお酒を飲むのが上手になっていた。
   とうぜん、絵は少しも上達しなかった。

   平成に入って三津寺という町名はなくなり、西心斎橋になった。
   私は画を描くのをやめ、しばらくして画廊は店を閉めた。
   いま、画廊の後は占いの館になっている。
   館の入り口は紫色の灯りが灯っていた。
   オーナーが生きていれば、悲しむだろうな。お洒落な人だったから。

   今でも画を続けていたらどうなっていただろうと、ふと思う時がある。
   どんな画を描いているのだろう、ちょっと興味があるなあ。


                           2018.9.11