川上恵(沙羅けい)の芸術村
 話のポケット
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                めまぐるしい5月


    5月5日の子供の日、夫が道端で転んだ。
    世間は10連休である。
    7日、頭が痛いといい、かかりつけ医に紹介状を貰い、救急指定の総合病院へ行った。
    病院から電話がかかり、駆けつけると、夫はHCUに入っていた。
    急性硬膜下血腫だと説明を受け、色んな書類にサインをさせられた。

    HCUでしばらく様子をみて、上手くいけば2、3日後には一般病棟に移れるとの事だった。

    ところが翌日、退院との連絡が入った。すぐ迎えに来るようにと。
    「え、どういうこと? さっぱり意味がわからん」。
    狐につままれるとはまさにこの事である。
    運転をしない人間の移動は大変だ。タクシーを呼ぶがすぐには来ない。

    病院につくと夫は怪訝な顔をして、ベッドに横たわっていた。
    HCUの看護師に説明を求めるが、要領を得ない。
    医者は緊急手術が入ったので、説明に来れないという。
    昨日私が買ってきたパジャマを普段着に着かえ、夫は看護師に手を引かれベッドを下りた。
    「くれぐれも家では安静にお願いします。こんど転んだら、大変なことになりますから」
    看護師は執拗に私に繰り返す。
  
    そんなに大変なのに家に帰れるの? 夫も私も同じことを考え、退院の安堵はない。
    
    息子が医者の説明を受けに病院に足を運んだ。
    なんと、連休で病室が空いていなかったそうである。
    もちろん血腫が治癒の方向に向かっていたからだが。
    病気や怪我は連休にするものではないなあ……。

    次に検査のあるまでの20日間、夫を安静にさせておかねばならない。
    貸農園の畑が忙しい時期である。
    
    夫が戻った次の夜、仲間が突然亡くなった。
    気丈な妻の声に、余計に哀しさが押し寄せる。
    喪失感の大きさに今さらながら驚き、呆然としたままその日を過ごす。
    明日はお別れにゆく。

    
    間が悪いとは、こういう時をいうのだろう。
    農園の貸主から、我が家が借りている畑の並び一列の通路が狭くなっているので、
    直してほしいと電話が入った。
    安静の夫に聞かせるわけにはいかない。気になって畑に行こうとするだろうから。

    畝を削り、杭を打ち、板を渡し、なんとか通路を広げた。
    そして里芋を植えた。

    その合間にも私自身の病院通いだ。
    外に出る以外はほとんど寝ているが、流石に体は悲鳴を上げている。
    だが、久しく忘れていた、突っ張りが、むくむくと頭を持ち上げる。
    困った時や苦しい時ほど、私は負けず嫌いになる。

    「行けるとこまで行くか。倒れたら、それはその時」
    私は人間の生死は神様が決めると、思っている節がある。
    自分で操作できない領域だと。
    生死は神の領域だ。ジタバタしても始まらない。

    
    25日のCT検査の結果、夫の急性硬膜下血腫は大丈夫だった。
    但し慢性の硬膜下血腫については今のところ分からないそうだ。
    あまり無理はできないということだろう。
   
    そして先日、
    医者は私の脈をとりながら、「検査しておきましょうか」と言った。
    そうだろうな、ちょっと突っ張ったもんな。
    
    それにしても、なんとも忙しい5月であった。
    でも、まだ3日残っている。爽やかな5月を満喫したいなあ……。


                      2019.5.28