川上恵(沙羅けい)の芸術村
 話のポケット
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           嬉しいこと



    「めーちゃん」と、
    この歳になっても、子供の頃の呼び名で呼んでもらえるのが嬉しい。
    そう呼ばれるたび、私の中に夕焼け空のような温かいものが広がる。
    桃色の、橙色の、緋色の、温かくて優しいものがじんわりと。
    
    申し合わせたわけでもないのに、なぜか決まって「めーちゃん」だった。
    小学校も、中学校も高校も、大人になってもである。
    恵の「め」である。
    
    弟はいまも私を「めーちゃん」と呼ぶ。70近いというのに。
    知らない人は「めーちゃん」を「ねーちゃん」と聞き違え、姉弟なんですねと言う。
    私は笑ったまま、間違いを指摘しない。

    同じ歳の従姉妹が口にする「めーちゃん」は、無邪気で最高だ。子供の時のままだ。
    「めーちゃん元気!」
    「めーちゃん、いま何してるの?」
    「めーちゃん、久しぶりに飲まへん?」
    従姉妹と言うのは不思議な存在だ。
    兄弟のように重くはないが、根っこがつながっていると言う妙な安心感と連帯感がある。
    それは氷山の水面下の部分を思わせる。
    そういえばここしばらく彼女の「めーちゃん」を聞いていないな。電話をしてみよう。


    それから、
    夢でいいから、
    もう1度、母の「めーちゃん」を聞いてみたいな。丸ごと私を包んだ呼び方だったな。
    父の「めーちゃん」も、なかなか良かったな。可愛くて仕方がないという声音だったな。
    
    80歳になっても90歳になっても、「めーちゃん」と呼ばれたいな。
    「めーちゃん」が似合う人でありたいな。
    

                       2019.6.8