川上恵(沙羅けい)の芸術村
 話のポケット
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               待ち合わせは病院で



   昨日は忘年会だった。
   素敵な庭を眺めながらのお酒は美味しかった。
   だが一転して、今日は心臓のご機嫌伺いのための病院だ。
   風邪が流行っているのか、待合室は満員だ。

   「あかん、あかん。私は風邪や肺炎の予防注射をしていない」と、そうそうにマスクをつけた。
   後ろで私を呼ぶ声がする。
   近所に住んでいるのに、長い間あっていない友人だった。
    
   「あのね……。それからね……。そうそう、こんな話も……」。挙句には、
   「私、情報通やから、 なんでも聞いてね」
   彼女がいうと、天真爛漫に聞こえるから不思議だ。少しも嫌な気がしない。
   きっと人間性がいいのだろう。
   金剛登山1000回を目指している人、藤井寺市出身の歌手、ブティックのバーゲンは来月に
   なったら20%引きになること、などなど教えてくれる。
   「へえ、そうなん」「へえ、知らんかった」
   
   やがて彼女が診察室に呼ばれ、話は終わった。
   その背中を見ながら、マスクの中で私は思い出し笑いをした。

   20年近くも昔のことだ。彼女とはお茶の稽古仲間だった。
   お点前を終え、彼女が入り口に座り、扇子を膝先に置き、「おめだるうございました」と、
   挨拶をしようとしたとき、隣の家から「チーン」という、仏壇の鈴の音が聞こえてきた。
   とっさに彼女は「ご愁傷様でございます」、と深々お辞儀をしたのだった。
   笑ったのなんのって。今も語り草である。
   
   引きこもりで隣り近所の事に疎い私は、待ち時間の1時間半ほどの間に、すっかり人並の
   知識を仕入れた。
   これからは情報を仕入れたければ病院で、ということになりかねないなあ。

           病院に遭ふ友久し着ぶくれて
   
                         2018.12.15