川上恵(沙羅けい)の芸術村
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                マスクいろいろ



    数日前に心待ちにしていたマスクが届いた。

    私は場所によってマスクを使い分けている。
    散歩のときは使い捨ての不敷布のマスク、家にいる時はガーゼのマスクか、ふかふかの
    タオル地の手作りマスク。ガーゼもタオル地もどちらも快適だ。

    届いたマスクは従来のガーゼマスクより、少し大き目だ。
    何だかだと物議をかもしだし、評判のよくないマスクだが、
     「安倍さん(さんづけでゴメンナサイ)、私は有難くこのマスクを着けさせてもらいます」と、
    ガーゼのマスクを外し、アベノマスクをつけた。肌ざわりは悪くないようだ。

    私がアベノマスクを着けようと思った理由は、評判の悪いマスクに対するエールと、
    政治家たちが着けるお洒落過ぎるマスクへの反感である。

    テレビでこのマスクを着けた首相を見ていると、
    「僕、一生懸命にやっているのに、なんかやる事なす事ちぐはぐになってしまうな。
    なんでかな?」と、なんだか悲哀を感じるのだ。
    そんな首相にマスクは殊勝に健気に張り付いている。

    後ろに控えた政治家達は、皆、お洒落なマスクを着けているのに、
    首相のマスク姿が一番貧相である。
    マスクが歪んでいたりしたら、なおさらである。別に安倍首相の熱烈なファンでもないが、
    それでも飛んで行って斜めになったマスクを真っ直ぐに直してあげたいとさえ思うのだ。
    それでも安倍さんは、顔には小さめのマスクを着け続ける。
    誰か追随する人がいてもよさそうなものを、皆さんけっこうシビアである。


    テレビではアベノマスクを手に、人々は文句を言っている。
    「小さい」「税金の無駄」「遅すぎる」「清潔なの?」などなどなど……。
    文句を言いながら、人々はアベノマスクを着けるのだ。
    文句を言うのが好きなのだ。
    
    その度に私は、文句をいうなら返せばいいのにと、嫌な気分になる。
    いらない人は寄付をすればいい、コロナは2波3波とやって来るに違いないから。
    そう思っていたら、北海道の地下鉄に「アベノマスク・寄付ポスト」なるものが設置された
    そうだ。
    不要とされるマスクには気の毒だが、本当に必要とする人、喜んでもらえる人に
    届くのである。
    複雑な思いはあるが、マスクにとっては幸せである。

    良いことを思いついたと喜んでいたのに、誰の思いも同じだなあと苦笑した朝である。

      
                 2020.5.18