川上恵(沙羅けい)の芸術村
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               今年の満月



    仲秋の名月が9月13日、満月が翌14日と、ことしのお月見はややこしい。
    私の住む大阪では、名月は雲の中で残念だったが、満月は清澄だった。
    北海道の知人によれば、名月は楽しめたが、満月の日は小雨だったとか。
    何だかだといっても、日本は広いのである。

    子供の頃、いやいや正直に言えばもっと長じてからも、満月は1年に1度だけだと思っていた。
    仲秋の名月である。
    その日は、縁側にススキや萩の花を生け、お団子や里芋など丸いものをお供えし、
    縁側に座って、今か今かと月の出を待ったものだった。
    1年に1度の行事が、私に満月は年に1度だと思いこませていたのだ。
    翌日にはお供えのお下がりを食べた。

    思い込みはもう1つある。
    太陽は東から出て西に沈み、その沈んだあとから月が上ってくると信じこんでいた。
    思い込みは、理屈以前の面白いものだ。


    年齢のせいだろうか。
    お正月、節分、ひな祭り、花見、七夕、月見、クリスマス、除夜の鐘などの
    行事が愛おしくなってきた。
    
    今宵は満月。
    1年で1番小さい満月だとか。それはそれで可愛いではないか。
    夜遅く、家の前に出てみた。
    中天に金色の満月だ。神々しい輝きだ。
    辺りに人影のないのを幸いに、私は大きな口を開けて月光を飲み込んだ。
    なんだか体の中に清浄なものが流れ込んだ気がした。
    魚座の満月は浄化と解放をつかさどっているそうな。

    「あれっ、そういえば狼男っていたな? たしか満月の夜に人間が狼に変わるんだ」
    月光を飲み込んだ私は大丈夫だろうな。
    因みに月見団子は、名月の夜に2つ、満月の夜に2つの計4個を食べた。
    これも大事な行事である。
    


       2019.9.14