川上恵(沙羅けい)の芸術村
 話のポケット
エッセー  旅  たわごと    雑感 出版紹介 




                   巨樹



    友人と巨樹を訪ねることにした。エネルギーを貰うためだ。
    まずは「大阪緑の百選」の第1位に選ばれた、天然記念物の薫蓋楠(くんがいしょう)である。

    門真市三ツ島の地に三島神社(みつしま)は鎮座する。
    本殿の前に風格ある薫蓋樟はそびえ、滴るような緑が空一杯に広がっている。
    新緑の頃は清々しい香りと、緑の蓋を被せたように見えることから「薫蓋樟」と
    呼ばれている。
    見上げていると夜空の星を眺めているような敬虔な気分になってくる。
    精気に包まれている心地よさに、細胞の1つ1つが深呼吸するようだ。
    神秘的な生命の力強さ。

    注連縄を張った幹から四方八方に太い枝が伸びている。
    幹回り12、5M、樹高は約25M。樹齢は1000年以上だというのに、支柱もなく自力で
    枝葉を繁らせているのには驚嘆する。
    なんと豊かに瑞々しい1000歳だろう。
    私と友人は幹に両手を当て、内部の鼓動を聞く。

    本殿も境内も樟に包み込まれたように抱かれ、安心しきっているようだ。
    枝のあちこちから鳥のさえずりが聞こえる。それも幾種類ものさえずりだ。
    樟の根元には古色蒼然とした歌碑が建っている。
      村雨の雨やどりせし唐土の松におとらぬ 樟ぞこの樟   千種有文(ちぐさありふみ)

                        (エッセー 河内再発見・「鬼門の街」 より)


    薫蓋樟から西に700Mほどの所に「稗島(ひえしま)の楠」がある。
    樹齢400年の楠は樹勢も旺盛で川面を覆うように枝を広げている。
    幹の周りは8、8M高さは10Mだとか。
    なにより民家の庭に聳えているのには感動を覚える。世話は誰がされるのだろうか。
    巨樹の下で暮らす四季はどんなに豊かだろうと、楠の横の屋敷に思いを巡らす。
    爽やかな香りが降り注ぐ初夏、ひんやりと大きな木陰が庭を覆う夏、楠の上にかかる満月、
    満月は川面にも浮かんで。しんしんと雪を被って屹立する冬。


    薫蓋樟と稗島の楠から元気を貰った私達の足取りは軽い。
    突然、「久しぶりに四天王寺に寄らへん?」と私は彼女に言った。予定になかった事だ。
    「いいね」と、彼女は即答だ。

    四天王寺で私達は思いもよらない素敵な光景に出会った。
    その時の私達の驚きといったら……
    滝のように流れ落ちる、見上げんばかりの柳の木々が出迎えてくれたのだ。
    柳の枝越しに見える赤い五重塔や諸堂の幻想的な美しさ。
    そして静けさ。
    聖霊院絵堂へ続く庭は、異国へ迷い込んだのかと錯覚するような柳の道だった。
    敷石は絵堂まで続く。

    「私達、呼ばれたんやね」と彼女は言った。
    

薫蓋樟
薫蓋樟
薫蓋樟
稗島の楠
四天王寺の柳

2021.10.21