川上恵(沙羅けい)の芸術村
 話のポケット
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                  今年の赤色



    スマホの小さな画面に「この日の思い出」という、通信サービスが送られてくる。
    例えばこんな風だ。

    2年前の今日 ……東北の大内宿の写真だった
    5年前の今日 ……奈良坂が映っている 奈良豆比古神社や北山十八間戸、
             今はホテルになった奈良少年刑務所
    6年前の今日 ……八尾の大師堂だ
    7年前の今日 ……古市古墳群の古室山古墳の写真が、そして野中寺が
    12年前の今日 ……古民家や武家屋敷が映っているが、どこか思い出せない。どこだろう。
    
    そのどれもが過去の「今日」に、私が出会った風景である。写真に残した場所である。
    それらのどの出来事も、思い出という美しい衣を纏ってきらめいている。
    思い出になると、どうして何もかも美しいのだろう、どんなスパイスが入っているのだろう、
    きっと時間が美味しく熟成させるのだ。

    豊かな過去の出来事が、次々に現れて、私を夢中にさせる。
    「ひきこもりだと思っていたけれど、結構動き回ってたんだ」と、嬉しがらせる。
    今日が豊かだと過去も豊かになるんだ、と新発見をした気になった。

    きっと、豊かなふりでもいいんだ……。

    さっそく私は7年前の私に出会いに、家からそう遠くない、古室山古墳と野中寺に向かった。
    そこはもう冬支度をしていた。今年最後の赤色だった。私は写真を撮った。
    過去には執着しない筈の私だったのに。

    高野山の大滝の紅葉から始まり、奈良や龍田川、そして今日、最後の紅葉を楽しんだ。
    残りの赤の風情といったら……。
    
    

 大滝    龍田川   野中寺   古室山古墳


                   2020.12.2