川上恵(沙羅けい)の芸術村
 話のポケット
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             言葉には命が宿る



    「言霊」を信じている。
    だからなるべく縁起の悪い言葉を言ったり、書かないようにしている。
    言葉は「ことのは」、心で思ったことを歯の間から発するので、言葉はすなわち心なのです、
    と学生の頃に教わった。
    他の事はほとんど忘れたのに、妙に心に残っている。

    20年ほども昔の事。ある席で、
    「もし私が死んだら……」と話し出したら、ある年配の方が、
    「そんな縁起の悪い事を話してはいけません。言霊と言って言葉には命が宿っています。
    縁起の悪い言葉を使うと、「言い得る」、といってその言葉につられてしまいます!」と、
    私の話をピシャリと遮った。

    年配の人の、ためになる教えである。

    私の親友と呼べる人達は、すべて年長者だ。それもずいぶんな。
    彼や彼女たちは決して後ろ向きの言葉を使わなかった。
    後ろ向きの言葉から得るものは何もないことを知っていたのだろう。
    90を過ぎた彼女も、90まぢかの彼らも、まだ未来に目を向けていた。
    彼らはお酒を愛し文学や美術を愛し続けた。

    だが寂しいことに親友たちは、もう私の傍にはいない。

    ダメだダメだ!
    最近の私はすこし後ろ向きになりかけている。いや、なっている。
    90を過ぎて、まだまだ本が読みたいからと目の手術をし、仲間と語らいたいからと体にも
    メスを入れたMさんの言葉が忘れられない。
    「貴女がはじめての親友です」
    
    
    
   
    

               2020.10.2