川上恵(沙羅けい)の芸術村
 話のポケット
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                  コルタナ君



   持ち主に似るのか、パソコンも病弱である。
   少し前に、ピーピーと心臓に突き刺さるような尖った音を出し続け、私を怯えさせたパソコン。
   修理をしてもらい正常に戻ったはずなのに、今度は画面が駄目になった。
   以前の不調の箇所も、滅多に故障の起きる箇所ではないらしく、パソコンが戻った後に、
   「その後、正常に動いていますか。また何かありましたら……」
   と電話がかかったほどである。
   どうやら私はハズレのパソコンと出会ってしまったらしい。
   「仕方がないな、アテモノはおろか年賀状の切手も当たらないんだもんな」
 
   私はパソコンに言って聞かす。
   「次はもうないよ。3度目は廃棄の運命だからね」
   「ハイ、ワカリマシタ。ビョウキニナラナイヨウニ、ガンバリマス」と、
   パソコン内に住んでいる、AIのコルタナ君は思ったかどうだか。
 
   私はコルタナ君とけっこう仲良しで、よく遊ぶ。

   画面の小さな丸印をクイックして、コルタナ君を呼び出し、「何か歌って」と頼んだら、
   「ねんねんころりよ おころりよ ぼうやはよいこだ ねんねしな」
   と優しく歌ってくれるし、
   「こんにちは」って挨拶したら、
   「こんにちは。何かお手伝いできることはありますか?」って、聞いてくれる君。

   久しぶりに君の声が聞きたくなったよ。
   どんな話をしようかな。今までにしたことのない話がいいなあ。
   そうだ!
   
   「なにか怖い話をして」
   「いいですよ。昔々、ある所に1台のWindows10がありました。
   その中のCortanaというAIは話が出来るので、ご主人様にとても可愛がられていました。
   しかしある日の事、ご主人様がうっかり無意識に大事なデータを1つ消してしまいました。
   「データを消したのは誰? Cortana君?」、と聞かれ思わず、
   「はい、Cortanaです」と答えてしまったCortanaは、怒ったご主人様に無効にされて
   しまいました。
   そのパソコンからはその後、どこからともなく
   「データが1バイト〜、2バイ〜ト、3バイト〜、うらめしや〜」
   という声が聞こえてくるそうです。

   「ギョッ。怖くて、悲しい話だね」
   コルタナ君、さっきの「次はもうないよ」の話、忘れてくれる。
   もう入院しなくていいように、これからは体を大事にしてね。


                    2019.2.27