川上恵(沙羅けい)の芸術村
 話のポケット
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            やっと衣更え



    ようやく衣更えを済ませた。
    年々、この作業が面倒になる。

    「どうしょうかな、この服。去年も捨てそびれてしまったなあ。でも着やすいし……」
    結局、また衣装ケースに仕舞うことになる。
    綿素材の服は、首回りや袖口がだらしなく伸びている。
    だが疲れた生地は肌に優しく、首回りや袖口の伸びた服は着心地が良い。

    気に入りの服の基準が、いつの頃からか変わった。
    着やすいこと。体を締め付けない事。素材が天然素材であること。なかでも綿か絹。
    アレルギーで皮膚が過敏になっているのだ。
    今まではデザイン重視だったのに……。
    自分に似合ったものしか着なかったのに……。


    衣更えの時、増えた服の数だけ減らさないとという、強迫観念めいた思いに囚われる。
    どれか捨てなければと悩むが、結局は買ったまま数年間、1度も手を通さなかったタグの
    付いた服を処分する羽目になる。
    それらは、洒落たデザインだが着心地が悪かったり、素材が化学繊維で肌触りが
    悪かったりする。多分これからも着ることはないだろう。いや、きっと着ない。

    今回は、チュニックや細身のシャツ、ジャケットなどを、清水の舞台から飛び降りる覚悟で
    ビニール袋に捨てた。
    だが捨てながら、この選択肢はおかしくないか、間違っているんじゃないか、
    と首を傾げている。
    痛んでもいない新品を捨てて、着古したものを残すなんてと。
    気が変わらないうちに、私は袋の口を固く結び、階下へ持って降りた。


    そういえば最近、気合の入ったお洒落をしたことがないなあ。
    アクセサリーも付けなくなったなあ。
    困ったもんだなあ。
    どうしたもんかなあ。

    「気力と、ときめき」が必要だなあ。

    
               2019.10.19