川上恵(沙羅けい)の芸術村
 話のポケット
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                この夏にしたこと



    8月が終わった。
    出かけたのはたった2度、病院での検査と両親の墓参。
    電話以外で、家族以外の人と話したのは、片手ほどだ。
    一体どんな夏を過ごしていたんだ?

    した事といえば、
    ゴーヤ茶作り、鈴虫の世話、そして鉢植えのヘチマを毎日眺めていた。
    それでも退屈しないから不思議である。よほどエネルギー欠乏症かな?

    ヘチマの小さな実がなった日、小学校の朝顔の観察を思い出した。
    狂喜乱舞して朝顔を眺め続け、祖母から、「暑けがはいるから、はよ家の中へ入り」と、
    叱られたものだ。
    ヘチマの実の成長は、次々に朝顔の花が咲いてゆく喜びに似ている。
    感動とは無縁の夫も、ヘチマの雌花や実に見入っている。いいことだ。

    そういえば祖母はヘチマ作りの名人だった。
    あの世で退屈をして、私にヘチマを作らせているのかな。
    でなきゃ、初挑戦でこんなに上手く育つ筈がない。
    ひょっとして、祖母が乗り移っている? まあいいか、祖母なら。

    そして階下では鈴虫の鳴き声。

    炎天下を酷暑をものともせず活動している人達を見ると、正直羨ましいと思う。
    だが彼女たちは、ワクワクとするヘチマのこの妙味を知らないだろう。
    目の前で羽根を広げ鳴いてくれる、鈴虫の音色を知らないだろう。
    プラス思考の私は、負け惜しみでなくそう思えるのだ。
   
    「無いものねだりをしない。出来ることを面白がる」
    得な性格だ。
    いまベランダはヘチマに占拠され、洗濯物は隅で小さくなっている。



                       2020.9.1