川上恵(沙羅けい)の芸術村
 話のポケット
エッセー  旅  たわごと    雑感 出版紹介 



                    戸外の雛飾り



    花のころになると、桜は1年に1度の事だからと、世間もマスコミも大騒ぎするのに、
    なぜ、ほかの花は桜ほどには騒がないのだろう。
    サザンカ、フヨウ、カンナ、ケイトウ、キンモクセイ……
    どの花もそれぞれに可憐で風情があるのに。
    全く騒がれない花もある。
    これらの花も1年に1度しか咲かないのに。

    富田林寺内町で雛祭り展が行われている。
    1年に1度というのが、なぜか頭に引っかかって出かけた。

    私は室内に飾られたおひな様より、戸外で太陽を浴びている雛飾りが好きだ。
    のびのびと外の空気を堪能している気がする。
    内裏様もお雛様も、ツンと澄ましていないのだ。
    それに春の光に輝いている花々の美しいこと。
    茶色の大きな瓶には無造作に花がいけられている。我が家では金魚が泳いでいるというのに。

    レンギョにツバキにナノハナにミモザ、至る所で花が出迎えてくれる。なんという贅沢。

    通りを1筋それてみる。
    たった1筋それるだけで人の姿はみえない。
    ふと、ひっそりとしたお寺に目がいった。なんと門から本堂まで桃色が連なっている。
    境内に人影はない。私はそっと中に入らせてもらった。
    
    「わあ、桜!」
    河津桜だ。大きな鉢に入った河津桜が何鉢も本堂まで並んでいる。
    思ってもいないところで桜に出会うなんて、嬉しい誤算。
    やっぱり人は桜に出会うと声が出るのだなあ……。
    
    


2024.3.10