川上恵(沙羅けい)の芸術村
 話のポケット
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                   近鉄奈良線



    コロナ感染症が世間を騒がせて以来、3年ぶりに近鉄奈良線に乗った。
    難波から鶴橋・布施・学園前を通る奈良までの路線は、けっこう乗車客が多いので
    敬遠していたのだ。
    「わあ、なに。この派手なラッピングカーは。初めて見るなあ。嬉しいなあ」
    お上りさんのように車体をしげしげと眺める。ちなみに私は乗り鉄である。

    五重塔にお城、野球場、魚屋の大将と買い物かごを持った小母さんが話している商店街……
    それらの図柄がカラフルな色調で描かれている。
    明るく、楽しいラッピングカーだ。私はウキウキと電車に乗り込んだ。
    「やっぱり出かけてくるもんだなあ……」


    今日は富雄にある百楽荘で会食である。
    1万坪の敷地に数寄屋造りの棟が点々と建っている。
    建物をぐるりと取り囲んだ庭の木々に抱かれて、部屋の中は緑色に染まっている。
    上品なしつらえの中で頂く会席料理は、繊細で目にも美味しい。
    お酒は奈良の銘酒「豊祝」である。大好きな銘柄だ!冷酒で頂く。

    「しまった。またお料理の写真を撮るのを忘れてた」
    こういう時である。自分の歳を思い知らされるのは。
    食べたり飲んだりに忙しくて、ついつい写真を忘れてしまうのだ。
    だが、今回はかろうじて1枚だけはシャッターを押せた。
 
    食事のあとは自由気ままに庭を散歩する。
    入り口の、この門をくぐると長寿が約束されるという「長寿門」を、私は出たり入ったりした。
    欲張りすぎは駄目かなあと、贅沢なひと時だ。
    僅かに紅葉が始まっている。