川上恵(沙羅けい)の芸術村
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            菊の頃



    気がつけば菊の季節だ。
    去年までは知人から貰った菊が、畑で隣との通路にはみ出すほどに咲いていた。
    せっかくなら家で楽しみたいと、欲を出し、移植をして大きな鉢植えにした。
    ところが畑の方が居心地が良かったのか、庭はひっそりと寂しい。

    10年近く、季節を届けてくれたのに。
    家はもちろん、両親のお墓にも、抱えきれないほど大盤振る舞いができたのに。
    香りで家じゅうが爽やかだったのに。
    なんだか忘れ物をした気分だ。

    急に菊人形を見たくなった。今でも枚方公園では、菊人形が飾られているのかなあ。

    家から小1時間の所に国華園がある。菊花展を行っているはずだ。
 
    私には変に律義なところがあって、春には桜、土用にはウナギ、お月見には月見団子、
    秋には紅葉狩り、クリスマスにはケーキ、節分には巻きずしの丸かじり……、
    それに、連休にはたとえ近場でも、どこかへ旅行がしたい。世間並みに。

    格好良く言えば、季節を楽しみたいのだと言いたいが、実のところ嬉しがりなのだ。
    

    館内は菊の香りに満たされていた。菊の絵巻物が広がっている。
    特作花壇の迫力、ダルマ菊や糸菊の品ある華やかさ……
    これぞ日本の秋、秋の香りだ。

    これで秋の行事をひとつクリアーできたと、小さな幸せを覚えた。
    



    
                         2019.11.3